UNITÉ

Research Groups 2024: Group C「社会の単位(モジュール)という観点から世界建築史を読み直せ」

はじめに

社会の単位(unitもしくはmodule)とは何だろう。 社会をつくる単位とは個人がどんなふうに集まったもの(molecule)なのだろうか。その視点から世界史を読み直す可能性を萌芽的に提起することがミッションである。

建築はそれぞれ独自の社会を内包している。つまり、建築をある性格を持った集団の営みの集積であるとするならば、建物(Form)は彼らの生活(Substance)の安定を図る役割をもつ。しかし、住まいへの観察の視点は空間を用途/機能によって理解することが先行しており、そこで暮らす歴 史的奥行きを持った家族の関係性への理解が希薄になっている。

本プロジェクトは住まいの形態と家族の関係性、それぞれの形成要因には互いに干渉する要素があるという仮説から、構法や技術への視点を超え、家族の関係性と建物の関係性から住宅史を捉える視点が必要である。

研究のフレーム

○社会単位と危機

・ 社会活動は主に「寝る」、「食べる」、「集う」、「労働」が住宅を中心に展開され、これらの活動の基本単位こ そが「家族」である。ゆえに社会単位とは家族であると考える。

・ 社会単位(家族)から見た建物(F)の役割とは社会単位内(S)あるいは社会単位間(S-S)の安定をはかる ためのものであり「、”家族”というシステムが揺らぐタイミング」において、建物(F)の家族の営み(S)への 関係性、役割、機能が捉えやすく、またその出来事を「家族(S)の危機」と呼称して扱う。

以上より、本プロジェクトでは「社会単位」と「危機」を以下のように設定する。

→社会単位=家族

→ ”家族”というシステムが揺らぐこと =家族(S)の危機

○伝統社会と近代社会というフレーム 

単位となる家族の形態は産業構造や生産体制、慣習から強い影響を受ける。つまり、その家族が所属する社会の構造を見極めることが必要になる。 

そこで、本プロジェクトでは「伝統社会」と「近代社会」の大きく2つのフレームを設ける。

伝統社会→家族の存続を重要視する

近代社会→労働力(家族)の補完を重要視する

○危機としての側面をもつ出来事

危機としての側面をもつ出来事には次のような事柄が挙げられる。これらは出来事であり、その出来事がある家族 にもたらす危機的側面(本質)と、それに対する家族の危 機への態度、建物の役割への考察は多岐にわたる。

A. 結婚 B. 離婚 C. 死別 D. 新主導者の誕生 E. 子供の思春期 F. 家族の不調和 G. 共同体外との交流 H. 子供の誕生 I. 住居以外の利用

成果

本プロジェクトでは伝統社会、近代社会の家族とその住居を各5例扱った。ここでは、代表的な例を紹介する。

○テナド

テナドとは西アフリカで見られる拡大家族によって形成される複合住居(コンパウンド)である。

テナドには家長の家族と、家長の弟の家族が主なメンバーとして居住している。一夫多妻制であるため、妻の増加に伴い住棟を増やしていく。そして、この中庭を囲む住棟配置計画には家族の規模が大きくなるにつれて、家長や妻の地位が テナド 全体で共有される効果がある。

また、本事例ではE. 子供の思春期 F. 家族の不調和を扱った。

その中でも特に、一夫多妻制ならではの家族間の危機を解消するための備えが見られた。それは夫婦の営みによって生じる、同じ夫を持つ妻間の軋轢である。この摩擦を解消すべく、テナドの住棟の個室の配置は異なる妻間の寝室が隣接することがないように、緩衝帯となる円筒が設けられている。

直系家族では見られない1つの小さな社会がテナドには存在し、建物(F)には家族のメンバーシップを円滑に進める役割がある。

○スカイハウス

菊竹清訓は近代住宅に住む家族の単位が各家族であることを理解し、夫婦2人の空間を中心に据えた。そして、いずれ家を出ていく子供は居内生活において一時的な存在であるとし、必要に応じてピロティに増減築するアイディアを菊竹は採用した。実際に、ピロティ空間の様相は激しく代謝した。

このようなスカイハウスのラディカルなスタイルを黒沢隆は「(LR+BR)+Σ子供部屋」と表現した。そして、黒沢は近代住居の脆弱性を指摘する。黒沢は理想の現代住居を個人のプライバシーに求め、論を展開していく。しかし、現代住居に生活を一緒にするメンバーは必ずしも従来の家族と同じであろうか。

*黒沢隆「個室群住居―崩壊する近代家族と建築的課題」(住まいの図書館出版局、1997 年 9 月 9 日)より

以下、他事例

まとめ

現代社会において、ひとつの住居で生活を同じくするメンバーのつながりは必ずしも血縁関係によるものではなくなってきている。この時、新しいメンバーシップの在り方(S)と同時に、彼らを支える器(F)の在り方もまた求められるだろう。そしてそれは、黒沢が示した近代住居の一般解で示されるものではなく、ここのメンバーシップに沿った特殊解として表現されうるだろう。伝統社会における家族が住む住宅の形態(F)と生活の営み(S)の関係性にその豊かさを生み出すヒントがあるのかもしれない。

参考文献

01 Long House
・清水郁郎 他「ラオス深南部山地のロングハウスに関する統合的研究‐「高密度居住」を可能にする木造長大家屋の特質と居住文化‐」
(住宅総合研究財団研究論文集No37, 2010)
・上杉富之「贈与交換の民族誌 : ボルネオ・ムルット社会の親族と祭宴関係のネットワーク」(国立民族学博物館,1997)
・加藤裕美「サラワクのロングハウス社会におけるインドネシア人移住者との共住」(マレーシア研究 第6号,2017年)

02福建土楼
・小林宏至「土楼 円い空の下で暮らす福建客家の民族誌」(風響社,2013)
・瀬川昌久「客家:エスニシティーの形成とその変遷」(風響社,2021)
・飯島典子, 河合洋尚, 小林宏至「客家=Hakka:歴せんとし化・イメージ」(現代書館,2019)
・重村力「客家の円形土楼ーその建築様式と集住の知恵」(神奈川大学アジア研究センター,2021)
・茂木計一郎「中国民居研究ー客家の方形・環形土楼についてー」(財団法人新住宅普及会住宅建築研究所報,1986)

03Tenado
・藤井明「集落探訪」(建築資料研究社,2000)
・ノーバート・ショウナワー(著),三村浩史(監訳)「世界のすまい6000年①先都市時代の住居」(彰国社,1985)
・東京大学 生産技術研究室 原研究室「住居集合論Ⅱ」(鹿島出版会,2006)

04Ehan
・藤本庸介「住まいがつたえる世界のくらし」(世界思想社,2016)
・Amman Imman WATER IS LIFE「The Tuaregs」<https://ammanimman.org/the-tuaregs/#>(参照2024-7-20)
・ResearchGate「Space As Configuration:Patterns of Space」<https://www.researchgate.net/publication/335910605_Space_As_Configuration_Patterns_of_Space>(参照2024/7/29)
・GABE F. SCELTA「Much to Learn About Living:Tuareg Architecture and Reflections of Knowledge」(School of Oriental and African Studies,University of London,2011)

05Shaker
・ジューン・スプリッグ 藤門弘訳「SHAKER」(平凡社 1992)
・藤門弘 「シェーカーへの旅」(平凡社 2000)
・中谷礼仁「未来のコミューン一家、家族、共存の形」(岩波書店 2019)
・修士論文発表レジュメ_福居.pdf (nakatani-seminar.org)
・小説 『The Believers』1957 翻訳プロジェクト −シェーカー教の生活とデザインを通して− (nakatani-seminar.org)

01Insula&Domus
・後藤久「都市型住宅の文化史―石の文化と木の文化」(NHK出版,1986)
・後藤久「ヨーロッパにおける中世住居の系譜Ⅰ-ローマン・インスラの概念-」日本建築学会論文報告集 第251号・昭和52年1月
・後藤久「ヨーロッパにおける中世住居の系譜Ⅱ -インスラの多様性とラテン系町屋の特質-」日本建築学会論文報告集 第252号・昭和52年2月
・堀賀貴「ポンペイにおける集合住宅についてインスラ型住宅に関する考察」 日本建築学会計画系論文樂 第469号,193−199,1995年3月
・堀賀貴「古代ローマ都市、ポンペイに関する建築史的研究」(1995)

02Kommunarka
・本田晃子「革命と住宅」(ゲンロン、2023)
・道上真有「住宅貧乏都市モスクワ」(東洋書店、2013)

03中野本町の家
・伊東豊雄、後藤鴨子、後藤幸子、後藤文子「中野本町の家」(住まいの図書館出版局,1998)
・「新建築 1976年11月号」(新建築,1976)
・「都市住宅 7701」(鹿島出版会,1977)

04スカイハウス「菊竹邸」
・菊竹清訓・槙文彦(著)、栗田勇(監修)「現代日本建築家全集19—菊竹清訓、槙文彦」(三一書房,1976)
・「都市住宅 8201」(鹿島出版会,1982)
・二川 幸夫「GA HOUSES 100:日本の住宅特集」(ADAエディタトーキョー,2007)
・水谷俊博・水谷玲子「建築家の自邸に学ぶ設計製図」(彰国社,2018)
・SOCKS「Evolutionary Housescape: the Metabolist Sky House by Kiyonori Kikutake (1958)<https://socks-studio.com/2013/12/12/
evolutionary-housescape-the-metabolist-sky-house-by-kiyonori-kikutake-1958/(参照2024/6/27)

05個室群住居「武田邸」
・黒沢隆「個室群住居—崩壊する近代家族と建築的課題」(住まい学大系 88、1997)
・「都市住宅 臨時増刊 7109 臨時増刊 住宅第1集」(鹿島出版会、1971)
・「都市住宅 臨時増刊 7111 」(鹿島出版会、1971)
・「新建築住宅特集 jt 9601」(新建築社、1996)