小金井市の閑静な住宅街にある、「NPO法人 地域の寄り合い所 また明日」。保育所、認知症の方のデイホーム、誰でも立ち寄れる寄り合い所の三つの機能を併せ持つ多目的福祉施設だ。「施設」とはいっても、ここでは壁をとっぱらったアパートの一階部分で、利用者が世代を超えて一つ屋根の下で生活を送っている。そこには決まった介護マニュアルも、1日のプログラムも存在しない。従来の施設のあり方とは異なる、家族的なつながりで営まれる共同体や地域共生のあり方を実践しているのだ。
今回はその「また明日」を設立し運営されている、代表の森田眞希さんにインタビューを行った。
運営にあたって
──設立当初、スタッフはどうやって集めたんですか。
どうだろう、人づてが多かったかな。スーパーとかコンビニに置いてある求人募集に載せた時もあったけど。
──資格は問わずに面接や働いてる様子で採用を決めていく、みたいな話を聞いてびっくりしたんですけど、ここではどういう人が働いているんですか。
もちろん、認可保育園とかデイサービスを運営するには、資格を持った人を何名配置っていう基準は決まっているんです。ここの場合はその基準以上の配置をしてるんですね。なので基準はクリアした上で、じゃあどういう人に来てもらうかというと、面接をしていろいろ話を聞くんだけど、その話はあんまり聞いてなくて(笑)。まず入ってきた時にどうするのか、子どもが来た時、お年寄りが話しかけてきた時とか、そういう時にどういう対応するのかなっていうのを見ていますね。そういう時って人ってやっぱりでるんだよね、咄嗟に。
──やっぱり一般的な施設だと、どうしてもスタッフと利用者という構図であったり、ケアする人/される人みたいな関係性があると思うんです。でもここでは両者の距離感が近いというか、なるべく関係性を対等にしようとしてるのかな、と感じます。そのためには、やっぱり対話をする中で信頼関係を築いていくことが大事ですか。
そうですね、対話を重ねていくしかないですね。よく私の専門を説明する時に、「普段着の専門家なんです」って説明をするんですよね。例えばね、名札をぶら下げて制服を着た人と何か込み入った話をするってなると、ちょっと身構えるじゃないですか。だからいつも普段着で、エプロン着てその辺をふらふらしてますけど、いざという時には、実は専門家なんですよっていう感じ(笑)。ここを出入りしてる近所の子どもたちとか地域の人たちにとっては、私は近所のおばちゃんであり、一緒にこの地域に住む一人の住人である、という立ち位置でいます。そこから対話を重ねていけば、みんなそれぞれ本音も出る。そのやり取りを通して、お互いのことがよくわかってくるわけですよね。そういう中で、「ちょっとうちのスタッフにならない?」っていう人も何人もいます。
──スカウトするんですね。
そう、スカウト。寄り合い所に来てる人でスタッフになった人もいるし、保護者として来てたのにスタッフになった人もいますね。いい方の知り合いってやっぱりいい方なので、こういう人がいるんだけどって聞くと紹介してもらったりもしますね。
──スタッフと利用者の方の人数のバランスに関しては、ある程度コントロールはしているんですか。
ほんとうちのスタッフはね、すごいと思いますよ。週3来てる人もいれば常勤もいて、みんな働き方はバラバラなんですよ。今日なんかも、一人は調子悪くて、もう一人は腰が痛いって来れなくなったんですけど。ラインで「今日出てくれる人いる?」って聞くとダダーっとみんなが手を挙げてくれる。「今日午前中までなら」「じゃあ私午後行きます」って感じでダダーっと決まって回ってますね。それはコロナの時もそうだったけども、子育てをしてるとか、介護をしてるとか、みんな人生の中でいろんな局面があるわけで、本当にお互い様なんだよね。誰かが一方的にいつもそういうことがある、誰かは全くないっていうことはまずあり得ない。それぞれに波がある中で、自分が困った時には助けてね、でもあなたが困った時には私を頼ってねっていう関係性を作れるように。それはもう言葉に出して皆んなに伝えていますね。
──定員は決まってるんですか。曜日で利用者の偏りがあったり、全体として人数がどんどん増えていくと、空間的には結構手狭になったりもすると思うんですけど。
定員は各曜日12名にしてます。デイサービスも保育所も12名定員。ただ、味噌はね、どちらも本当はもっと受け入れられるんですよ。だけど寄り合い所を一つ屋根の下でやってるので。
──なるほど。少し定員を抑えて、寄り合い所の空間を確保していると。
そうそう、寄り合い所はいつ誰が来るかわからないので、保育所もデイサービスも少し余裕を持たせるようにしてますね。
デイサービスも曜日で偏ったりしないようにはしてるんですけど。でもそれは人数というよりは、最初に利用する方に会った時に、この方のイメージだったら何曜日にいらしてる〇〇さんに合うかなって感じで提案をしたりしますね。曜日によってすごくカラーがあるんです。カラーがあって当然なんですね。大きな施設とかに行ってすごく不思議に思うのは、そういうのがまるでない。

プログラムは決めない
──普通の施設ではプログラムも固定されてますよね。
でしょ、すごく違和感があって。私はとてもへそ曲がりなので、施設で「今日は水曜日なので皆さん歌いましょう」って言われても歌いたくないですね。だって歌いたい時に歌いたいじゃないですか(笑)。カラーって本当は動くものであって、それが動かないっていうことは、そこを利用してる人たちが主体になっていないっていう証拠ですよね。やっぱり人って影響を受けたり与えたりしながら過ごすわけですから。クラシックが似合うような曜日もあれば、何か違う音楽が良い曜日があったりとかね。それが普通であって、そういうのがない場合は、プログラムとかスタッフの都合で動いてるっていうことですよね。
──やっぱり介護の労力とか安全面を考えると、決まったプログラムを設定した方が運営側としては楽だと思います。それでも、ここでは決まったプログラムがないですよね。
そもそもプログラムが全くないということは、利用する人もスタッフも、その時間に向けて動かなきゃいけないということがない、ということですよね。施設ではそういうところで気が急いて事故が起きるんです。プログラムがないってことは十分に時間をかけて移動して良いということだから、「ここ段差があるんですよ、ちょっと気をつけてくださいね」って一息止めて上り下りするとか、そういう時間をかけられる。そうすると気持ちに余裕が生まれるし、動きにも余裕が生まれるんです。
──なるほど、先ほどのバリアフリーにしないってこだわりの話にも繋がりますね。ご飯の時間とかも決まっていないんですか。
みんなバラバラです。「今お腹空いてないから食べたくない。」「じゃあもうちょっと後にしますか。」って感じ(笑)。ごはんの時間が決まってるのも厨房の人の都合ですよね。何時までに上がらないと、何時までに片付けないとってなると、やっぱり殺伐とするよね。「何であの人いつも食べるの遅いの」みたいにもなるし。ここの場合は私たち夫婦は2階に住んでるし、ボランティアで手伝いに来てくれる人も多いから、別に何時までにやらないとだめだっていうのがないんです。いいよいいよってなれば、殺伐とした気持ちにもならないよね。
──僕の祖母は老人ホームに入ってるんですけど、たまに会いにいくと、どうしても現場は殺伐としているというか、緊張感を感じちゃいます。やっぱり大変だよなって職員さん側の気持ちもわかるんです。キャパもいっぱいだけど、経営を成り立たせるために必要だし。でもやっぱりここで暮らす祖母はしんどいだろうな、とも思います。
そうだよね。家族だってそれを見た時に、なんかすごく複雑な気持ちになったりするよね。
──でも、あの施設を回すためにはプログラムが必要なのかなとも思うんです。
そうですよね、必要悪。やっぱり一度に一緒に動いてもらわなければ困るっていうところもあったりするんだよね。
──そのプログラムを組まないといけないっていう問題は、やっぱり施設利用者の人数の多さなんですか。
そうだと思います。でも、悪循環ですよね。やっぱり働いてる人たちだって「これでいいのだろうか」って思って、施設によっては職員がどどっと辞めてしまったりもする。そうしたら、もっと長くやりたいとか、新たに働きたいっていう人が生まれないよね。これもね、ここの自慢の一つなんだけど、ちっちゃい頃から来てる子で、今大学生になって福祉をやりたいとか、保育士になりたいって子が次々と現れてるんです。やっぱり見ていて、もし私たちが殺伐としてバタバタしていていたら、そんな場所で働きたくないし、そんな職種は嫌だよね。いつ来ても自分のことを迎え入れてくれるし、何かみんなで笑って楽しそうにしているしってなると、一緒に働きたいなとか、こうなりたいなって思ってもらえるよね。
もう一つの拠り所を作る
ーーデイサービスというのはポイントなんですか。例えば老人ホームといった泊まれる施設も考えられる中で、デイサービスであることの意味というか。
そうですね。利用者さんが泊まれるショートステイとかに行って戻って来た時に、ガクンと介護度が重くなっていたりするのを見ると、森田(夫)は「うちに泊まりがあったらそんなふうにはさせないのにな」と言ってるんですけど。でも、2階を使って泊まりにしようってなると、やっぱり大変じゃないですか(笑)。
デイサービスは、あくまでも利用される方それぞれに家がある。そのベースがあった上でのちょっと立ち寄る所っていうのかな。やり始めた時にはそういうこだわりもあって。でも今そのベースとなる家庭というものが変化したり壊れてきている中でね、どうなんだろうね。
ーーなるほど、あくまでも、もう一つの家的な居場所にしたいと。デイサービスの場合だと、自分の家はしっかりあった上で、その人のもう一つの居場所を作ることができるという点で、すごくいいですね。
そうですね、人生の中での拠り所がたくさんあるイメージというか。我々だって、学校とか今住んでいる所とか実家とか、いろいろな行き場があるわけじゃないですか。でも、障がいを持ったり、歳をとったり、小さな子供を育てたり、こういった幼少期の子どもにとっては、過ごす場所が学校と家庭だけとか、やっぱりちょっと辛いですよね。

